『時空のクロス・ロード』で一発当てた“雑家”鷹見一幸が送る、痛快ポップビート・スペースオペラ。
人類がすでに地球外に進出し、数多くの宇宙国家群を形成している時代。
マイド・B・ガーナッシュはマガザン帝国の男爵家の当主。とはいえ、カネなし、コネなし、親もなしの下級貴族に過ぎない。
権力ゼロの貧乏貴族に残された立身出世の道は軍属くらい。とはいえ、普通に行ったら配属されるのは死と隣り合わせの最前線。安全な近衛師団に入るためには士官学校で優秀な成績を収める必要がある。マイドは唯一の武器である頭脳をフル活用して、近衛師団入りを目指すが・・・・・・。
夢破れたマイド。任官先の最果ての地アウトニアで彼を待っていたのは
あんまりにもほのぼのした人々と、あんまりにもへっぽこな艦隊だった。
そんな中、アウトニアに迫る戦争の影(?)。マイドはアウトニアとそこに住む人々を守り切ることが出来るのか?
さて、まずこの作品、主人公マイドの立身出世サクセスストーリーではないです。いやまあ、しないわけじゃないけどさ、出世。
もちろんスペオペなんで戦争もあるにはあるんですが、その戦争のしょぼいことしょぼいこと。銀河英雄伝説とかと一緒に考えない方がいいです(読んだことないけど)。
なにしろ、いっつも主人公サイドの戦力がスゲェ弱っちいので、それを知恵と勇気と小細工で誤魔化しながら戦うわけですよ。
ストーリーラインは結構古典的なんですが、次々繰り出される小道具は斬新です。こちらの予想を絶妙に外してきます。
敵軍といっしょにマイドにコケにされるような、微妙な快感。ニヤニヤ笑いが止まりません。
ド派手な艦隊戦は多くはありません。ですが、弱小国家が強大な敵に立ち向かう(それも“イイ性格”した方法で!)って、もっと燃える展開じゃないですか?
こうした部分が『でたまか』の魅力の半分です。後の半分は、究極的にはヒロインであるメイの魅力といえます。
メイはアウトニアの王女。とはいえ、いわゆる「姫」的なキャラクターではありません。彼女の魅力はあくまでも普通の女の子の魅力。いまどき珍しい100%清純派です。そしてそれゆえに彼女は真の王族――幸せな日常生活の象徴なのです。
何のために戦うのか。愛する故郷を守るために。愛する人を守るために。幸せを守るために。メイは男達にとっては恋人であり、妻であり、妹であり、娘であり、孫でした。女達にとっては自分達の代表でした。メイを守ることは大事なものを守ることと同義なのです。そして、お姫様に「お願い」されれば、だれでもお姫様を守る騎士になれる。メイは国そのものなのです。
こうしたバックグラウンドがあるからこその地味戦争なのです。野望や理想のためではなく、幸せのための戦争だから。“本当の戦いってのは死者の数を競うことじゃない”んです。
奇抜な戦術とほのぼのな日常が銀河を股に掛け繰り広げられる。
すべては、愛すべきものたちのために。
とりあえずメイらヴ!
可愛いよぉ・・・。しかも巻が進むとだんだん可愛くなってくんの。イラストにも変化が見られまして、絵師が上手くなってんのか意図的なのか、『奮戦記』のとき微妙に田舎臭かったのが、『再興録』になると成長してキレイになってるんですよぉ。そばかすも消えてるし。
そんなメイとマイドの恋はもう中学生レベル通り越して童話レベル。進展も何もあったもんじゃありません。それが割と自然なのがメイのメイたるゆえんか。ホント可愛いったらありゃしません。
でも実はコットンのほうが好きなんですけどね。普段の名司令官振りもなかなかたまらんものがありますが、ぽろっと素直になる瞬間が鼻血吹きそうです。
「やっぱり・・・・・・かなわないのかな・・・・・・」
っきゃ―――――――!!!
萌えるっす。
で、細かいことなんですが、この作品、句読点の打ち間違いが多いです。新しい巻では少ないですが、1巻あたり結構萎えます。同じ内容のセリフが2つ並んで書いてある(片方消し忘れたっぽい)という許しがたいミスがあったりもして、クオリティに関してはお世辞にも高いとはいえませんね。まあ、その辺が『牛丼小説』なんでしょうけどね。早い・安い・うまい。
2003/1/10 Moriyan