いつものことだけど、この作品もそれは当てはまる。
つまり、エロゲーというものになにを求めるかということ。
ストーリーの大筋は、ええと、引きこもり気味の少年の元に魔法のブラウザが届いてWebの中に入れるようになってってなんかもーバカバカしくなってきましたが、要するにお話自体はその程度です。軽い、薄い、浅い。つーかもう、さすがライターが元漫画家らしく、根本的に文章力が欠如してます。いや、そんなにひどいわけじゃないけれど、稚拙です。
でも、だからつまらないというわけでは、決してありません。
先程、一体なにを求めるか、と言いました。僕がこの作品に求めていたのはつまり、心地よい時間であり、地に足の着いた恋愛劇であり、普通のいい話でした。そして、これらの点における『こころナビ』の完成度は、かなり高いと言っていい。
まあ、魔法のブラウザなんていうある意味突飛なネタを使ってるわけで、それなりに派手な展開もあります。ショッキングな展開も、実はそれなりにあります。しかしながら、それはあくまでもオマケとして、あるいはなきゃマズいから入ってるだけであって、(わかりにくいだろうから言っときますが、小春とか凛子とかのアレやアレのことです。)あくまでも本題は明るく楽しい心機一転新生活にあります。
その楽しさを支えているのは、やはり亜方逸樹氏が一人で仕上げた、血と涙の結晶たるグラフィックでしょう。キャッチーでいて適度なクセのある魅力的な絵柄は、それだけで金出してもいいと思わされるほどです。そしてシナリオのほうも、恋愛関係成立後の様子をきっちりゲーム内で描いているなど、とかく楽しい生活を見せるのだという意思が感じられて好印象。多少のアラは「まあいいか、幸せだし」ってなノリで流してしまえます。
ここで重要なのは、そんな極端なご都合主義に走ってしまいそうな雰囲気を持っているにもかかわらず、ヒロインとの関係が徐々に深まっていくのを段階的に表現しようとしていることです。まあ、大して長くもないクセにそんなまだるっこしいことをしてるもんだから、どうしても全体的に描き込み不足になってしまっていまして、それが嫌な人には嫌だとは思います。僕も嫌だし。しかしながら、それでもこの良心的なシナリオは高く評価されるべきかと。……ああ、そう考えると小春と凛子のシナリオは実に惜しい。
そして最後に、いい話であること。先述の通り、軽くて薄くて浅くてコテコテの話です。しかし、強力な感情移入度を持つAVGで、これだけど真ん中直球ないい話を、照れずてらわず手を加えず供することができた作品があったでしょうか。あくまで、わかってて作ってるという条件付きですが、エロゲーのシナリオってこんなんでいいんですよ。
グラフィック:S
神。原画も塗りも一人で仕上げたというグラフィックは、立ち絵も一枚絵も素晴らしい完成度です。どうやら背景も自分でやったらしく、画面に心地よい統一感があります。ああ、やはり分業というのは必要悪にすぎんのだなあ……と思い知らされる作品です。
中でも特筆すべきは一枚絵でしょう。意外とエロ率が高いんですが、さもありなん、素晴らしくハイレベルなエロ絵です。安っぽいAVみたいな俯瞰視点しか使えない原画家が多い中、柔軟な構図と確かな画力で独特の世界を築いた仕事ぶりは全力で評価したいところ。しかもやわっこそうな上に表情がエロいんじゃよー!
キャラクターデザインにも独自の哲学が感じられます。仲手川とか。プレイ前はなんだこりゃと思ってたんですが、終わってみるとこれしかないと納得がいきました。ルファナ・舞耶・ラミューあたりのフリフリ全開趣味丸出しの衣装も実にいい。普通の普段着も上品でいい感じです。つか、茶系多いよなあ。
あえて文句を付けるなら一枚絵の枚数くらいでしょうが、プレイ時間からしたら適正な枚数でしょう。文句なし。
音楽:B
なかなかいいです。BGMに特に目立つところはありませんが、OP・ED曲は普通すぎてかえって本流から外れてしまっている感じ。けっこう好きです。聞けば、歌っているのはオペラ歌手の方だとか。納得。
システム:C
まあ聞いてくれよ。社員が3人しかいなくて、しかもプログラムの専門家がいなくて、苦しい事情は察しられますよ。しかし、今時オートモード付いてないとかテキスト表示速度変更不可とか未読スキップ完全不可とか正直ありえないよなあ。インターフェースからするとNScripter(フリーのAVGエンジン)っぽい?……あ。違った。CoffeeMakerってなんだろ。ともあれ、操作性は比較的いいです。個人的に重要なスキップとバックログが良好なのは嬉しい。が、いかんせん機能がお寒いのでせいぜいこの程度の評価でしょう。
実用性:D
絵は……!絵はエロいんです!シチュエーションもエロいんです!問題はテキストなんだ!テキストがもっと頑張ってくれたらすげえエロくなるのに――――!!!これなら絵とシチュだけもらって脳内妄想のほうが使えるっつーの!
ボイス:E
なんつーか、ね。ひどい。滅多なことじゃボイス消しプレイなんかしないんだけどなあ……。
とにかく演技がヘタすぎます。もっかい専門学校出てこいや。みまりさんとペコネンはそれなりに聞けるけど、他は邪魔。演技指導がどうこうのレベルに達してません。まあ、キャスティングはコネとカネだろうから、仕方ないか。
キャラ萌え:A
◆ルファナ
見た目は抜群にかわいいです。一枚絵の出来も破格で、絵描きに愛されてるのがわかります。ガーターエロい。
精神的ロリっ娘。純粋無垢な娘を自分色に……うへへへへ。セクハラ魔人勇太郎との相性は完璧。
◆小春
シナリオがあまりに不完全で割を食ってる感じがあります。それでなくてもちとキャラ薄いかなーとは思いますが。きょぬーだし、あんまり好きじゃない。正直電気は余計だしなー。
◆凛子
実妹です。実は血が繋がってなかったとかありません。大マジです。すげえ。
頭脳明晰でヒネてて、かなり好みのタイプなんですが、実妹という難しい位置付けのために話を詰め込みすぎ、描写が散漫になっている印象を受けました。むむむ、プレイ前に色々妄想してるときのほうが楽しかった。ライターの技量不足ですねえ。
◆みまりさん
関西弁巫女さん。もう一回言ってみましょう、関西弁巫女さん。素晴らしいですよね。
もはやこれ以上の説明は必要ありますまい。ああ、日本の美。正直霊感は余計だけどなー。
◆ペコネン
ちっちゃい外人さん。普通にかわいいです。シナリオの出来も比較的よく、みんなに好かれるよい娘ではないかと。僕の大好きな片言っ娘。連呼!連呼ですよ!
ジャパニーズキモノ似合いすぎです。
◆仲手川
一番のお気に入り。プレイ前はどうでもよかったんだけどなー。
どうもシナリオライター茉森氏のお気に入りらしく、かなりいいシナリオもらってます。いやまあ、地味だけどさ!人気ないけどさ!僕は好きだよ!チョコとかさ!
演出:C
特別な演出は特になにもないです。エフェクトが綺麗なのはプラスですね。
立ち絵の演技はなかなかだし、一枚絵も必要なところにはちゃんと入ってると思うんですが、一枚絵の差分CGによる表情変化があまりうまくないのはちょっとイヤ。差分の数自体はそれなりに用意してあるだけに、「ああもう、そこで表情戻さんかいっ!」と叫びたくなることもしばしば。
シナリオ:C
先述の通り、話の起伏のなさはこの作品においてはなんらマイナスではないんです。問題は、一言で言えばこれです。短い。短いことそのものはむしろ正義ですが、一番書いて欲しいところを事実としては示しているのに描写がないことが……つまり、小春と別れるのはいいけど、ちゃんとよりを戻すとこまで書きやがれ!ということです。そんなわけで、本来細かい書き込みが必要なはずの小春・凛子ルートは描写不足が目立ちました。普通に小話で、余計なものが付いていないルファナ・ペコネン・仲手川ルートは好き。