天使のいない12月

Leaf

 だいたい僕がプレイする作品はナニが面白いんだか説明するのが難しいのが多いんですが、中でもこれはかなり難しいです。つか、ムリ。わかんない人には絶対わかんないよコレ。
 なぜなら、これは「思い出しゲー」だからです。

 そもそも、この作品には発売当初から比較的厳しい意見が寄せられていました。曰く、話が平坦、暗い、薄い、短い、オチてねえ、主人公がムカつく、むしろ登場人物全員DQNじゃん、とか。いやまあなんつーか、まったくその通りなんですけど。なんですけど、それでもこの作品を支持する理由が僕にはあるんです。僕はずっと、こんな作品を待っていたんです。

 「学園モノ」というのは、ギャルゲーのジャンルとしては非常にポピュラーです。が、『同級生』の昔から、本当に感情移入できるような、プレイヤーの心情に擦り寄った学園モノというのは作られてこなかったのではないでしょうか。いや、作られてこなかったのです。それは、ギャルゲーが「恋愛ゲーム」である限り避けようのない必然でした。だって、恋愛ゲームみたいな恋愛したことある奴はギャルゲーなんかやらんだろ、普通。
 ゆえに、ギャルゲーが本物の学園モノに到達するのには、「青春ゲーム」を受け入れられる多様な市場が必要でした。「恋愛ゲーム」の一つの局地とされる『ToHeart』を世に送り出したLeafが「青春ゲーム」である『天使のいない12月』を発表するまでに6年の歳月を要したのには、恐らくそんな理由もあったはずです。(余談ながら、全くの同日に『CROSS†CHANNEL』が発売されたのもただの偶然とは言い切れないものがあります。今やある種のアーキタイプである「学園モノ」はこれだけの懐の広さを持ち得たのです。)(あと、2003年秋以降に『雪桜』『あののの。』等の作品が相次いでリリースされたのも、また興味深い。)

 さてさてさて、つまり、この作品の革新性は、「灰色の青春をどかんと作品のメインに据えた」というただ一点に集約されるといえるでしょう。毎日がつまらなくて、未来に希望も持てなくて、あらゆることが面倒で、全てに対して臆病で、大して不幸でもなかったクセにただ毎日無為に過ごしていたあの日のコトを、現状、もっとも感情移入しやすいメディアであるAVGで表現してくれた。僕はこれを、ずっと待っていたんです。

 つまり、わからない人にはわからないというのはそういうことです。こんな、青臭くて甘ったれた学生時代を送ったことがない人には、この作品は決して理解されないでしょう。一方で、ある種の人間にはこの上なく共感できるはずです。
 例えば、捨て犬を巡って木田と冬子が言い争うシーンなんか、昔イヤになるほど考えてたことと一緒。とにかくどいつもこいつも、懐かしいような未だに胸に刺さってるような、そんな台詞ばかり吐きやがるもんで、もはや気分は色々つらかった中学校時代に逆戻りですよ。この作品全体を包む青い気分ときたら、まったくなんたる再現度か。もちろんこれはフィクションで、嘘も多分に混じってはいるんですが、妙なリアリティがあります。象徴的なのは妹の絵美里でしょう。そう、当然のように実妹。のみならず、ギャルゲー的な妹像を一切無視した生々しいキャラクター描写でお兄ちゃんの夢を粉々に打ち砕いてくれます。萌えもエロも二の次の作り方はまさにこの作品そのものです。

 賛否両論のエンディングも、だからあれでいいんですよ。これはただそんなことがあったというだけの物語なのだから、結論も結末も必要ない。なにも変わっていないのも当たり前です。一月やそこらで簡単に人間変わるわけないんですから。彼らの問題に対しては、ゲームが終わったあとも一生付き合っていかなきゃいけない。その過程はむしろ、描いてはいけないでしょう。あそこまでは誰もが通る道だとしても、そこから先は自分で決めなきゃいけないんです。立派に更生して透子と結婚して子供生まれて幸せエンドとかやられてもただの余計なお世話にしかなりませんよ。

 正直、シナリオのクォリティの低さは否定できません。しかし、これが今のところ代わるもののない唯一無二の作品であることもまた事実。絵のよさを差し置いてもプレイする価値のある作品だと思います。


グラフィック:A

 言わずと知れた人気原画家、なかむらたけしとみつみ美里をダブルで起用。彩色も原画に引けを取らない高水準で、業界最高峰の陣容を誇るLeafグラフィックチームの実力を存分に発揮しています。小洒落たシステムグラフィックも好印象。自信をもってお勧めできます。
 まあ、原画はよく見るとけっこうアラはあるんですが、素晴らしい出来なのは疑いありません。夕焼けと肌と愛液の描写が印象的な塗りは神レベル。ブラボー。ちなみにマイベストCGは、なかむら原画ではしーちゃんのアレ、みつみ原画では明日菜さんのごほーし。

音楽:S

 シンプルなアコースティックギターの曲が多いです。他の曲も総じて軽くて地味。しかし、確かなセンスを感じさせる、高品質でありかつ場面にマッチした曲群は、BGMとして文句のない仕上がりです。あまりにシンプルなので褒めにくかったりするんですが、鬱陶しい悪趣味サウンドが平気でまかり通る業界で、このサウンドは貴重です。初めて主題化シングルではなく、サントラアルバムが欲しいと思いました。
 あ、主題歌もすごくいいです。普通にオリコンチャートに出てきそう。堅実な作曲と歌唱力で聞かせる安心の葉っぱ印。こみパの歌もよかったですし、なるほどボーカルCDも作りたくなろう。納得。

システム:A

 これまた素晴らしい。軽くて使いやすい。それに、表示と効果音がものすごく綺麗なんです。細部まで行き届いた意匠が嬉しい。エフェクトは少々鬱陶しいし、セーブ周りなんかはまだ改善の余地がありそうですが、立ち絵も巻き戻るバックログがあらゆる不満点を帳消しにしてくれます。これだよ!これを待ってたんだよ!ホイール上下で戻し/送り、左クリックで音声再生。今まで見た中では間違いなくベストのバックログシステムです。

実用性:C

 シーン数自体はかなり多いです。なにしろどのルートでもヤりまくってるもんで、Hシーンの比率も高い。にもかかわらず抜けないのは、そもそもそのために作ってないからでしょう。話の展開上必然って感じで、最中でも色々余計なことを考えてしまうせいで、そこそこエロいのに抜けません。僕は基本的に絵よりテキストで抜くタイプなんですが、それでも絵だけのほうが抜けるかも。
 あと、シーン数は透子が飛び抜けて多いです。三分の一以上。当然CGの使い回しもかなりあります。そりゃあ、どのルートでもヤるからねえ。攻略中はさして気になりませんが、回想を使用するときには問題ありか。

ボイス:A

 基本的にシナリオ以外は一級品なんだよなあ。素晴らしい。演技のレベルも配役も文句なしです。特に透子役の鮎川ひなた嬢はビクビクオドオドして鈍くさいダメっ娘を好演。全体に地味ながら光る演技が多かったです。

キャラ萌え:B

 リアル志向で、全員黒髪!おおおおブラッッッヴォーーー!!ピンクとか、奇抜な色の髪が苦手なので、諸手を上げて大喜びです。真帆はキャラからして茶髪でもよさそうな気がしますが、校則で決まってるんでしょうか。

 それはそれとして。
 プレイヤーに媚びる作り方をしていないので、ぶっちゃけいまいち萌えません。が、それがいい。むしろ、初期の普通のギャルゲー路線の名残が残っていると鬱陶しかったりするくらいです。
 で、一般的な萌え萌えーな感じとは違うんですが、それでもキャラクターは魅力的だったと思います。お気に入りは……透子と絵美里かなあ。透子は利発な娘さんが好きな僕にしては珍しくかなりダメな娘です。まあ、そんなにバカなわけじゃあないんですが。とりあえず黒髪眼鏡は至高。絵美里は僕のリアル妹嗜好を直撃するステキ妹。いつもぷりぷり怒っているのがかわいすぎます。

演出:A

 A評価連発ですが、本当によくできてるんだから仕方がない。
 一枚絵の入れ方、曲の選び方、特殊効果の使い方、どれもこれも控えめながら効果的な、教科書にしたい完成度です。特筆すべきは雪の描写。「リアルな雨」とやらを喧伝してる某A○eの連中はコレ見て出直してきやがれ。エフェクトは技術じゃねえ!センスなんだよ!サウンドモード時、ED曲『ヒトリ』は必見。

シナリオ:C

 Bは付けられないなあ。何度も言うようですが、出来はよくありません。ぶっちゃけつまんないです。別段いい話ってわけでもないし。デモムービーとか見てピンとこなかった人はやらないほうがいいでしょう。Leafだからなんだか無闇に売れちゃいましたけど、本来隠れた好作的な作品ですから。


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