月姫

TYPE-MOON







 2000年の同人ゲーム界を震撼させた一陣の風。コミックマーケット59における、間違いなく最も偉大な作品です。同人の限界を打ち破るクォリティと強力なユーザーサービスで、一躍美少女ゲーム界のトップダムに躍り出た脅威の一作。





■システム:6点

 フリーウェア・NScripter使用。とはいえ性能は悪くありません。ただ、バグが取れなかったらしく、読み返しが実装されていないのが残念です。シーン回想もありませんが、これは20個のセーブ数でけっこうなんとかなります。

 また、珍しいシーンスキップ機能を搭載。シナリオ全体を細かくシーン分けし、一度見たシーンは完全にスキップできるというもの。長い作品だけに大変便利です。さらに現在の場面がどこか分かればよかったんですが。まあ、全体的には十分使用に耐える出来でしょう。







■グラフィック:6点

 決して悪くはないですが、よくもありません。原画はそれなりですが塗りは非常に粗く、この辺りはいかにも同人。雰囲気には合ってるんですが…。写真取り込みの背景も気になる人は気になるでしょう。

 ただし、質は高くなくても枚数は多いです。特にさほどのクォリティを要求されない立ち絵ではその利点が生きてきます。表情豊かなキャラクターの演技はなかなかのもの。萌え転げます。特に激情家の秋葉の表情は必見。







■サウンド:6点

 こちらは逆に曲数の少なさがネック。曲自体はおしゃれですし、やはり雰囲気に合っていていいんですが、いかんせん10曲では少なすぎます。BGMが鳴ってないのは意外と気にならないんですが、使い回しすぎは否めないところ。

 あと、この作品は効果音が印象的です。あのドックンドックンは耳から離れなくなりますね。ダーク系のBGMにドックンドックンコロセコロセ。最高。





■Hシーン:7点

 なにやら唐突な感すらあるほど濃いです。押し倒したとたん言葉でなぶり始める主人公の豹変ぶりはいっそ爽快。しかも乱暴。しつこい。さすが絶倫超人。

 ♪おとこはおおかみなの〜よ〜 きをつけなさ〜い〜(Songed by Pink Lady)





■キャラクター:9点

 巧い。ヒロインから敵キャラから脇役まで全員が強烈な個性を放ってます。専用シナリオすら(まだ)ない脇ヒロインにまで固定ファンが付くあたり(詳しくはオフィシャルサイト人気投票を参考。クリア後に。)、ただではありません。

 なにより、主人公・遠野志貴が個性的かつカッコいいのが、主人公の名前変更否定派の僕としてはたまらなくうれしいんですよ。眼鏡とかナイフとか例の眼とか、美意識にビンビン響く要素が満載。とてもエロゲーの主人公とは思えないヒーローぶりです。かぁっこえぇ…。





■ボイス:なし

 いらないですね。あってもかえってテンポが悪くなりそうですし。





■シナリオ:9点

 面白い。このシナリオは面白い。製作総指揮の竹内崇氏がインタビュー『月姫の製作の際、目標にしたのが「すごく面白くて、少し泣けて、十分にHなゲームにするコト」でした。』 と語っていましたが、その目標はおおよそ達成されたといっていいでしょう。

 系統としては、全体的な流れがどうこうよりは文章自体の力で読ませるタイプ。(そんなところもまた痕っぽいなあ、と思うわけですが。)何度読んでも飽きません。まだエロゲーの世界には日本語がヘタクソなライターがたくさんいます。それは感動的な名作を生み出したライターも同様。技術的なレベルが高くないのは否定しがたいところです。しかし、この作品は文章の見栄えに大変気を遣っています。表現の巧みさでは業界トップクラスといえるでしょう。

 ……ただ、長いのを差し引いても誤字が多すぎますがね。秋歯とか。秋歯とか。

 さて、表現の巧みさばかり強調していますが、当然物語がつまらないわけではありません。多くの伏線をきっちり回収しきってますし、キャラクターにテーマ性を仮託する手法も見事。メインヒロイン・アルクェイドのトゥルーエンドをクリアした後はしばし呆然としたものです。間違いなく、商業作品と競っても最高の部類に入るシナリオと言えるでしょう。







■総合評価:9点(傑作)

 月姫は同人作品です。同人で商業作品と渡り合える作品を作るのは、一般的には難しいと思います。

 しかし、だからといって僕は月姫を「同人の割にはよく出来ている」というように見てはいません。

 確かに月姫はある部分では同人の限界を露呈しましたが、一方で、納期に縛られず、かつクリエイターが作家性を発揮しやすいという同人の強みをも見せました。ユーザーとの距離の近さによって発売後のサポート・サービスでも成果を上げました。まさしく同人ならではのヒットだったといえるでしょう。

 面白い話が読みたい人に、真っ先に薦められる一品です。












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