CANNONBALL〜ねこねこマシン猛レース〜

Liarsoft

キャラクターについて

 エロゲーでエンターテインメントをやるときの一つの方法として、雑多な要素をごちゃまぜにして供する、というものがあり、かなり有力な位置を占めています。なぜなら、エロゲーは、エッチシーンという最低限の価値を担保されており、総合的エンターテインメントであり、そして雑食的なオタク文化の精髄であるからです。ここでエロゲー製作のバックグラウンドについて語ることはしませんが、このような作品を成立させうるメディアが他に存在しないのもまた事実といえるでしょう。

 そう、『CANNONBALL』の魅力を一語で表せば、「雑多」というのが、恐らくは最も適切でしょう。ありとあらゆる意味で。安定感のあるBGM、美麗かつ型破りなグラフィック、激しく自己主張するテキスト、実力派を集めたボイス、さらにはレースゲームらしきものまで搭載した、百花繚乱のプレイ感。そういえばうさんくさいミニゲーム(しっぽ遊戯)もついていたっけ。
 上記は、いわばゲームの外観というべき点ですが、内容のほうも色んな意味でゴタゴタです。スペースオペラ風SF世界をベースとしつつ、オカルトだのなんだの突っ込んだ世界観は一般的なスペオペとは一線を画します。ひしめき合う勢力が互いに陰謀を巡らし、命知らずの玉乗りクラウンたちが火花を散らすのは、銀河でいちばん速い人間を決めるレース…キャノンボール。全15チーム参加という時点でどれだけキャラが多いかわかるというものですが、マシンに乗り込むクラウンとナビゲーターのほかにも彼らを取り巻く人々が多数登場し、各々勝手にドラマを繰り広げたりするのです。その複雑怪奇なありさまこそが、逆説的にこの破天荒な世界観にリアリティを与えているのでしょう。物理的に限りある情報量で、実に巧妙に妄想を喚起しています。

 それでいて物語が破綻しないのは、一つにはフィルとフォクシィ、もう一つにはキャノンボールという、確固たる中心軸を備えているからでしょう。全ての陰謀も事件も人間関係も、それらを中心に回っている限りシナリオの進行を阻害することはないんです。考えたものだと思います。以前、とある友人に「ネタを考えるだけなら誰でもできる。問題はそれを包括する構造を作り上げることだ」と言われたことがありますが、そういう意味では実によくできている。
 なにせ、女たらしのごろつきロッシがあっちゃこっちゃコナかけてもなんとなく元の鞘に収まっちゃうわけで、全く見事としか言いようがありません。フィリオがフィリオでなかったら、あるいはフォクシィがフォクシィでなかったら、決してこううまくはいかなかったでしょう。まさしく最高のコンビ。サブヒロインに個別エンドがないのも当然といえます。むしろあったらキレてたね。
 世界観の鍵としてのキャノンボールに関して言えば、その本質は“マドロス”バルディア・A・イオンのこの一言に集約されると僕は思います。すなわち、
「伝説の地球を飛び出し、銀河系さえ征服した人類の勇気と冒険心の象徴。それが俺たちクラウンであり、キャノンボールなんだ。」
シナリオの大道具としての役回りが先に立って、今一つその魅力が掘り下げられていないのが残念ではありますが、ピンと来た人は買ってまず間違いないかと。


グラフィック:A

 原画は小梅けいと。『サフィズムの舷窓』で見せた華麗な絵柄は相変わらずです。おっぱいは縮んでますがね。ただ、仕事量の関係なのか、一部やや粗い絵があるのが残念でした。おにゃのこがかわいいのはまあ当然として、大量に出てくる男、いやさ、漢キャラがきっちり描けているのは好印象。特に、しつこく画面に出張るフィリオがいいのは重要です。特徴的な衣装デザインも非常によろしい。ソデとか胸とか独特すぎるフォクシィのスーツ?やパティのライダースーツなんかお気に入りです。また、背景も実に美麗。インテリアデザインも凝ってます。(多分。)
 特筆すべきは一枚絵でしょう。通常の一枚絵に半画面分の一枚絵を被せたり、Hシーンで思いっきりカメラを引いてみたり、「普通のAVG」になるのを頑なに拒むライアーソフトのこだわりが光ります。
 また、重要な独自要素であるマシンやチームロゴ等のデザインもさすがにぬかりはありません。マシンのほうはちぃっとばかし奇をてらいすぎてる気がしないでもないですが、まあおおよそカッコいいのでよし。サポーターサイトのバナーがベタベタ貼ってあるのはさすがに気になりますがね!バルトアンデルス不自然すぎ。

 まあ、あえて苦言を呈すれば、ときおり必要なところに一枚絵がないことと、妙な方向に頑張りすぎてて抜けないことでしょうか。エロくないわけではないんですが……芸術的すぎるというかなんというか。
 というか、あの妙ちきりんな乳首は、どうか。

音楽:S

 ノーブランドサウンズ最高。この芸風の広さは何事でしょうか。あの中途半端なレースモードで熱く燃えられたのは間違いなくBGMのおかげです。なぜか歌がありませんが、別になくてもいいです。インストールフォルダを開けば普通にwaveファイルが入ってるのもいい。聞きまくってます。でも、毎度毎度ディスクをCDプレイヤーにかけるとミニドラマが入ってる仕様もいいけど普通にサントラとして聞けるとなおいいんだけどな畜生。

システム:(A)

 AVGとしては素晴らしい出来だと思います。非常に高機能、というわけではないんですが、とにかく操作性が抜群にいいです。使いやすさに関しては右に出るメーカーはありませんね。既読シーンを読まずに飛ばすスキップに、音声再生できるバックログに、色々使える「前の選択肢に戻る」と、痒いところに手が届く親切設計。これでオートモードさえ付けてくれれば操作系は完璧なのに、いつまで経っても付けてくれないのはなんでかなあ。動作も比較的軽いし、セーブ数も充分で操作もしやすいです。
 あまり評判のよろしくないレースモードも、過度に期待しなければそれなりに楽しめるんじゃないでしょうか。あくまでこれはAVGであって、レースは演出の一環だと思えば気になるほどではありません。つか、僕大好き。「魔王キター!ひィィィィ!」とか「ギャラハッド殺す!ぜってー殺す!」とかそんなノリで楽しみました。勝ち方がわかりづらすぎだとは思いますがね。ミニゲームのしっぽ遊戯もそこそこです。
 しかし、しかし、これらの美点を以ってしても、容易に覆せない致命的欠陥が『CANNONBALL』にはあります。まあバグなんですが。初期ロットの壮絶極まるインストール不具合の悪名はかつてバグゲーの代名詞として広くとどろいていたようで。現在はバグ修正版が出回っているので、僕もそこでは引っかからずに済みました。が、いざやってみれば強制終了・音声指定ミスが出るわ出るわ。ちゃんとデバッグしろよ!僕は操作性を買ってA評価を付けますが、あくまで暫定ということで。

実用性:C

 おおよそ、ヘンなゲームばかり作っていると理解されているライアーソフトですが、その実内容は意外とマトモだったりします。少なくとも、スタッフはそのつもりのはず。(「まっとうなAVG」である『Forest』がいい例です。)
 Hシーンも例外ではありません。ライアー作品のそれは、シチュエーションや互いの関係から精神的興奮を引き出すものになりがちです。恐らく星空めてお氏はその路線の最右翼。要するに、上品なんですね。
 だから、こう、絵も文もエロいことはエロいんだけれども、微妙に押しが足らない感じが付きまとうんですね。まあその上品さが好きではあるんだけど。
 あと、ライアーソフト伝統芸能「バックグラウンド喘ぎ声」はやっぱり素晴らしいです。みんなガンガン採用して欲しい。

ボイス:S

 加点法ならS。減点法ならA。パートボイスとはいえ、凄まじい数のキャラに声が付いているこの作品、どうしてもレベル差が出てきます。この人数をこのレベルで喋らせている作品はそうはありませんが、それだけにここはもう少しなんとかならなかったのかという声も少々。実況のヤマネさんが全キャラで一二を争うショボさだったのはいただけません。フォクシィも、居並ぶ名優たちを向こうに回すとやや厳しい。たまーに震える演技するんだけどなー。どうしてそう妙な方向に気張っちゃうんですかね嘘屋さんは。しっぽ遊戯もさ。あれはエロくてよかったけども、男にまでハァハァさせてる余裕があんならもうちょい建設的にだなあ!つか、なんで男のときばっかパーフェクト出んの?メルのときは3連続1ターンアウトとかやるクセに!キィー!
 ……ともあれ、男性含めたこの豪華声優陣と優れた演技指導を多少でも貶めるのは忍びない。敬意を持って最高評価を付けさせていただきます。ただ、喘ぎ声はもうちょい頑張って欲しかったかも。バックグラウンド喘ぎ声という強力な技を持ってるだけにね。

個人的キャン玉ボイスランキング
男性 1.ブッチ:渋い。某イベントでの長口上はエロゲ史に残る名演でした。2.根津:うさんくさすぎ。3.マドロス:大好き。いちいち台詞がかっけーんだよ!
女性 1.トト:深い。理多の七香抑えて脳内ランキング一位です。2.オルデンヌ:レース中の演技がスゴすぎ。3.パティ:キンタこと金田まひるの最大のハマり役かと。

キャラ萌え:S

 どうしてこれだけキャラがいて全員魅力的に描けるかな。男も女も全員好き。お手上げ。負けたよ。
 しかし、それだけに各キャラのエピソードの掘り下げが圧倒的に足らないのが歯ぎしりしそうに悔しい。
 各キャラについては別枠設けます。

演出:C

 ここだよなあ。
 BGMはいいし、CGのカットインもカッコいいし、凡百の作品とは比べるべくもない演出ではあるんですが、圧倒的な情報の奔流で押し切るべきこの作品では不足です。効果音くらいあってもよかったでしょう。レースの一枚絵がもっとあってもよかったでしょう。足りない。足りない。
 あと、BGMの入れ方が間抜けだったり、明らかに立ち絵が場面にあってなかったりすることもありました。このへん中途半端なばっかりに全体的に印象が貧相になってるんだよなあ。(恐らくは、その反省としてフォレストではアウトプットを絞って密度を上げてるんでしょう。)まあ、これはメーカーの地力が足りてないから仕方がない。

シナリオ:A

 夢とロマンをたっぷり詰め込んだストーリー、魅惑的な世界観、魅力的なキャラクター、全て揃ったこの作品に唯一欠けていたのはボリュームです。決して短い部類とは言えないんですが、それでもこの素材を活かしきるには明らかに不足しています。ここになにかあったんだろうな、というシナリオの空白が随所に見られ、話が飛んでることもしばしば。腰を据えて描き切ることができなかったせいで結末もややインパクトに欠けます。これを本当の完成まで発売延期できる体力がライアーソフトにあったなら!エロゲーの限界ですね。ああもったいない。本当にもったいない。

関連リンク

LiarSoft(製作)
原点皆既(原画家小梅けいと氏のサイト)
月・夜・灯(シナリオライター星空めてお氏のサイト)

名も無き物語(攻略情報)
“CANNONBALL 〜ねこねこマシン猛レース!〜”ネタ元人物&作品&用語リスト
有志によるインストールの手引き


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