CROSS†CHANNEL

FlyingShine

ネタバレ考察
その意図するところ世界の謎


 外注専門メーカーだったFlyingShineの初の自己ブランド作品。謎のシナリオライター田中ロミオ氏がシナリオを手がけ、その正体が話題にもなった。

■システム:8点

 かなり詳細な環境設定が可能で、アクティブウィンドウ時と非アクティブ時で設定を変えられたり、右ダブルクリックでウィンドウサイズを変更できたりと珍しい機能も実装しています。なにやら軽い気もしますし、慣れれば満足できる出来かと。ただ、バックログの少なさだけはどうにかして欲しいです。あと、キーボード操作を全くサポートしていないのが、キーボード派としてはちょっち不満。

■グラフィック:8点

 原画は新人の松竜氏。たまに顔が崩れたりしてますが、比較的高いレベルにあるといっていいでしょう。地味な絵柄ではありますが、それが透明感のある塗りとあいまって実に爽やかな印象を与えます。内容の爽やかさには70クエスチョンくらいですがね。立ち絵が立派なのがうれしいです。背景は綺麗ですが、微妙にウソ臭い気も。

 あと、コメディシーンでは小さなサイズの一枚絵が出てくることがあります。プッと吹き出します。ロリコンは犯罪です。

■音楽:8点

 これまた実に地味な仕上がりになっていますが、やはりレベル自体は高いといっていいでしょう。ただ、全体にドライなサウンドは好みが分かれるところではあると思います。

 しんみりしたピアノ曲が多いですが、かなりいい出来だと思います。曲自体の完成度はもとより、作品の雰囲気にもよく合っています。それに比べると、緊迫した場面で使われるエレキ系の曲は見劣りします。力の入れようの違いということでしょうか。

 ボーカルはエンディングテーマのみ。あんまり上手くないです。しかし、曲はいいです。シナリオの田中ロミオ氏が担当した詩は最高です。本編終わったあとだとぐっと来ます。

■Hシーン:8点

 回想に登録されるのは1人あたり3つ(美希のみ2つ)ですが、立て続けにする場合が多いし、中には諸々の事情から使用に耐えないものもあるので実質平均1・2回でしょうか。でも、主人公がひどく遅漏なので一回が妙に長かったりもします。

 どこからもエロそうな雰囲気がしませんが、Hは濃いです。本当になにもんでしょうか田中ロミオ。どうやら氏はオーラルセックスがひどく好きらしく、本番よりフェラのほうが使える勢いです。冬子ちゃんとの伝説のプレイ「寝フェラ」は長く語り継がれることになるでしょう。多分。

 セックスが物語の中にきっちり組み込まれているのも高ポイントです。

■ボイス:10点

 完璧。僕は声優にはあまり詳しくありませんが、それほど有名どころが集まっているわけではないと思います。実際、声優の実力が抜きん出ているようには思えません。恐らくは演技指導がよかったんでしょう。演技に関しても配役に関してもほとんど不満はありません。フラワーズなんかは微妙に素人くさいんですが、そこがまた妙にリアルでいい感じです。何度聞いても山口勝平と子安武人としか思えない男2人も素晴らしい。そんでとどめに七香。配役・演技とも完璧というほかありません。時間のムダ2における深夜まで飲んでた発言で理多にはいい印象を持っていなかったんですが、いいですこれなら。全部許す。

 さて、上の項で†のキスとフェラへのこだわりのすごさについては触れました。当然、音もすごいです。むしろこれのおかげで10点評価です。すごいです。完璧です。目ぇつぶってても抜けるかもしれません。指が口に入ってるのが容易に想像できるそこらのフェラ音とはわけが違います。感服です。

■キャラクター:9点

 すごくいいです。焦がれます。ずっと見ていたいと思わされます。きれいなんです。誰が好きって冬子が好きなんですが、公式サイトの人気投票で、彼女へのコメントに「絵に入れて飾りてぇ…太一の気持ち、俺にはよく分かるw」というのがありまして、彼女に限らずまさにそんな感じです。

 その主人公の太一ですが、これまたいいです。最高です。今までやったエロゲーの主人公の中ではトップクラスに好きです。ちなみに他は士貴とか九郎とか。ともあれ、単純にキャラクターとしても好きですが、「主人公」としてはまさしく完璧だったと思います。もう途中からは完全に一体化してました。個性もしっかり出しつつプレイヤーの視点としての役割も果たしているのはすごいです。

■シナリオ:9点

 まず、誤字が非常に多い、かつひどい間違え方をしているのは問題です。ただでさえ意図的に変な漢字の用法をしている場合があるだけに非常にわかりづらい。これに関してはパッチを出して欲しいですね。

 さて、とりあえず、デモムービー、ジャケット等から受けるであろう印象は信用してはいけません。大嘘です。確かに学園コメディ的なシーンもあるにはありますが、それすらも悲愴に写る切なさがこの作品の本質です。とはいえ、Keyに代表されるいわゆる「泣きゲー」群とは一線を画します。遠くから見ている感覚、とでも表現すればいいでしょうか。あくまで押し付けがましくなることなく、痛い物語もやさしく読ませるテクニックには脱帽するところです。

 一方で、それはわかりにくさでもあります。軽薄ともとれる文体に、すっきりしないといえばその通りのストーリー。小難しい表現や複雑な謎、おまけに哲学的なテーマのせいもあり、ある意味では読む側に努力を要するシナリオといってもいいかもしれません。

 しかし、その1本のシナリオとしての完成度は非常に高いです。各所に配されたギミックが絶妙に絡み合って徐々に収束してゆく展開の妙。笑えて泣けてへこまされて考えされられます。謎もクリアすればほとんど解けるはずです。ただ、時間がなくて細切れにプレイすることになるとさすがにわけがわからなくなるかもしれません。一本道ですし、極力一気にクリアすることをお勧めします。

■総合評価:9点(傑作)

 攻略後の第一印象は「これってどうもギャルゲーじゃないなぁ」って感じでしょうか。学園青春AVGであって学園恋愛AVGではないですし。かといって青春というのも少し抵抗がありますが。ともかく、かわいい女の子とらぶらぶするという方向性で作られていないのは確かです。といいますか、この作品自体「ギャルゲー」を皮肉ってるところがありますからね。後半の太一の行動などはまさしく痛烈な自虐ネタ。まじめにギャルゲーする気がないのは明らかです。

 でも、面白かったです。こんなんに本流になられても困りますが、年に1本くらいはこういうタイプの作品が出てもいいでしょう。緻密に練り上げられた構成に優れた技巧、少々小難しいのはなんですが充分賞賛に足るシナリオでした。台詞も実に印象的で、いちいち気が利いています。無限ループにハマったときには投げたくなりましたが、投げなくてよかった。


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