Dear My Friend

light

月夜ルート感想

 この作品、体験版をプレイした時点では、「友達でいられなくなってしまう戸惑い、それに伴う女の争いと修羅場」を期待していました。都香の初登場時のインパクトが強くて、どうしても、ね。サブタイ『...more than friend and under sweethearts』(友達以上恋人未満)だし。
 どころが、フタを開けてみたら意外や意外、けっこう周りの人がみんな温かく見守ってくれます。この手の純愛ゲーでは、お目当て以外のヒロインがほとんど登場しなくなるものが多々ありますが、この作品の場合にはそれは全く当てはまらず、麻衣・都香・月夜(ついでに司)の仲良しグループはレギュラー出演です。小麦と冴香は元々の立場もあってちょっと違いますが、互いのルートには出てきます。文人&こずえさんのバカ夫婦も優しく見守ってくれます。みんな、いい人です。

 非攻略ヒロインを含めてみんないい人、これだけでもありそうでなかなかなかったことなんですが、それだけで終わらないのがまた偉いところ。すなわち、そういう「いい人たち」の裏側をもきっちり描いている点です。みんながみんな身勝手で、それぞれの事情で友達の関係に収まっていて。超越的に見える文人とこずえですら後ろ暗い過去を持っている。ある意味では純粋な好意を否定してすらいます。それが逆に、目に見える「優しさ」「温かさ」に説得力を持たせている。

 と、ここまで読んでピキーンと来た人、いるかな?これって『家族計画』が2年前にやりつくしたことなんですよね。脛に疵持つ人たちが傷を舐めあうコミュニティ、仮初めの家族、うわべだけの親愛、中心に位置する主人公、それらが浮かび上がらせる確かな絆、とかそんなん。キャラも被ってますしね。まあこれだけなら、決してオリジナルではないということ。

 そこで、僕がこれこそDMFの味ではないかと思っているのが、「恩返し」です。
 「あのとき助けてもらったから、今度は自分が助ける番」という概念こそ、身勝手なキャラクターをハートウォーミングなストーリーに結びつけるキーワードではないでしょうか。どことくっついても後味悪くならざるをえない設定だけに、周囲に受け入れられる過程は絶対に必要。しかながら、そこで安直に善人ぶられてもリアリティを欠くだけです。
 そこに理由が存在するからこそ、クライマックスの盛り上がりにいやらしさを感じさせず、爽やかな後味を残しているのだといえます。

 ……と、強引にまとめてはみたものの、自分で書いてて少々ムリヤリだなーとは思ってるんですよ。なぜかというと、ルートごとにシナリオの内容もテーマもかなりバラバラだからです。なにせヒロインの立場がそれぞれ独特というか、ぶっちゃけおまいら友達じゃないだろと。「...more than friend under sweetheart」な関係の人というと都香くらいしかいないわけでして、その都香ルートだって友達⇔恋人という葛藤がどれだけ描かれていたかというと疑わしい。まこと看板倒れというかタイトル付け間違えというか、(あるいは都香ルートがトゥルーなだけか)まとまりのない印象が拭いきれない。逆に言えばキャラクターの役割分担、すなわち集団劇的な構成がしっかりしているということでもありますが、そこに違和感を感じてしまうのはパラレルに展開するキャラ攻略型の限界でしょうか。逆ハーレムルートというか、全員で争奪戦を繰り広げるルートがあればそれが一番自然だった……かも。


グラフィック:A

 くすくす氏の描くキャラクターは非常に可愛らしいです。塗りのレベルも高く、おおよそ合格点。衣装デザインも好みです。目だけはどうにも慣れないがな。しかし、立ち絵になんとなくえろーすを感じてしまうのは僕の心が汚れているせいなんでしょうか。
 ただし、エッチシーンの絵は微妙。まあそもそも抜けるゲームじゃないから仕方あるまい。
 背景やシステムグラフィックも綺麗です。ただ、少々エフェクトが鬱陶しい気もしますが。

音楽:A

 BGMは内容に合わせて趣味のいい出来。電子音っぽさを抑えたサウンドがよく場面にマッチしています。こういうの好き。
 しかし、それ以上に注目すべきはボーカル曲でしょう。そもテーマソングというものは、自身の出来はもとより作品内容との親和性が求められるわけですが、その点においてはDMFの3曲は珠玉です。感動補正の強力なこと。特に月夜テーマソング(?)の『月神の調べ』は、わざわざ用意されただけあって非常に強力。聞いただけで泣いちゃう。

システム:B

 基本的にはよくできたシステムだといえます。コンフィグも充分、ショートカットキーも充実していて操作感は良好です。もうこれくらいは標準にして欲しいね。
 しかしながら、その操作系の良さを台無しにしてくれるのが動作の遅さ。なにかするたびに必ずエフェクトが入り、しかも飛ばせません。テキスト表示プログレッシブにしなくていいから!一発で出せよ!見た目は悪くないんですがね……。

実用性:D

 無理。いまどき最初の一回のみってこたないだろうに。基本的に告白後も話が続くナイス仕様のくせにえっちは一回こっきりかよー!描写も薄く、そーゆー用途には適しません。
 ただ、女の汚い面を比較的きっちり描いている作品だけに妙な情感があり、薄い描写のわりには興奮度は高いような。それだけに抜きに無頓着なシナリオには疑問を呈したいところです。いや、そんな作品じゃないんだけど。

ボイス:B

 良質。さすがにそれなりの面子を揃えているだけのことはあります。
 ただ、全体を見渡してみてキンタこと金田まひるの孤軍奮闘(こと暴走)っぽい印象があるのは確か。修羅場の演技がちょっとぬるいかなあ。

キャラ萌え:A

 一見すると、天然・悪友・巫女・姉・宇宙人(?)と記号的に見えますが、その実典型的なシナリオ中心のキャラ立て。僕は好きだな。クリアしないと全然キャラが分かりませんけどね。主にみゃーことかみゃーことかみゃーことか。全員ですけどね。
 このタイプの利点はシナリオが盛り上がるにつれて愛も深まってくることでして、ご多分に漏れずこの作品でもクライマックスでは泣きつつも萌え、みたいな忙しい精神状態を味わえます。分かりやすいサービスシーンも決して少なくないですが、方向性としてはシナリオ重視だと理解すべきでしょう。
 あと、バカップル最高。

演出:A

 ビジュアル面に関しては、イベントCGの少なさがネックでしょうか。さすがにこれでは演出もなにもない。いまどきこうも古典的というか前時代的というか、ベタベタなCG割りも珍しい。
 エフェクトも基本的にはきれいと言えますが、妙に雪にこだわるのはともかく、程度というものを考えていないのか、かなり鬱陶しいです。降雪エフェクトもいまさらこのレベルってなどーなのかね。要求高いか?目パチ等のアニメも、好きな人は好きなんでしょうけど僕はあんまり……。いや、耳はよかったけども。それよりエフェクトが一切飛ばせないため体感速度が絶望的に遅いのが大問題。テキストのプログレッシブ表示(っつーのかな?じわーっと浮かび上がってくるやつ)とか、もうアホかと。このもっさりしたエフェクトが快適な操作性をかなり殺してしまっています。もったいない。

 しかし、微妙なビジュアルを補って余りある絶大な効果を発揮しているのがサウンド演出。基本的なBGMの作曲選曲もきっちりしていますし、なによりヴォーカル曲の使い方が素晴らしい。ゲームソングの良し悪しは曲の完成度よりゲーム本編との親和性で決まるというのが僕の持論ですが、その点にかけては珠玉の3曲といえるでしょう。この激烈な感動補正、中の人にはKOTOKO亡き後のエロゲー界の新歌姫の称号を差し上げたい。(なにを勝手に)
 なかでも光るのが、はいもう言うまでもありませんね、『月神の調べ』です。あれはシナリオに泣かされたのか歌に泣かされたのか知りませんが、もう歌だけで目が濡れちゃう!体質になってしまったことは確か。あ、なんか思い出したらまた涙が。勢いでAS作っちゃうくらいキました。素晴らしい。

シナリオ:A

 キャラクターのところでも述べましたが、典型的キャラ語りシナリオ。よってシナリオもキャラとの関わりを抜きにしては語れません。泣きゲーの基本的な技術ではありますがね。
 これまた繰り返しになりますが、このタイプはシナリオの盛り上がりとキャラ萌えが相乗効果を発揮するのが強みで、この作品もそれを非常に意識しているように思われます。特にメインライターのNYAON氏は、キャラクターの背景と現在の状況、それに物語の展開を絡ませるのが非常にうまく、実に計算高いシナリオを書く人です。さらには各シナリオが相補的な関係にあり(後味が悪いとも言う)、全部クリアしたあと微妙な気分に浸れることうけあい。この計算高さ無駄のなさ、あるいはワザとらしさは好みが別れるところかもしれませんが、しょーがないじゃん好きなんだから!まだまだ修羅場スキー的には突っ込みが甘いと思われるところもありますが、まあやりすぎも良し悪しだしこんなものでしょう。行間からキャラの心情を読んで鬱になるのが好きな人にお奨め、かも。

関連リンク

プレイ時の日記  (〜21)
AS『月神の慟哭』ダウンロード


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